かこばなし。

「どう?」
赤く、黒く、何かが弾けた。
「これは?」
枯れた枝のような、何かが折れる音がした。
べったりと何かがついた小さな物が足元に転がる。
あぁ、これは母の誕生日に私が……。
細い悲鳴を上げたところで、女は満足そうに笑んだ。
「なんだ、まだ泣いてくれるのね」
さらに何かが砕ける音がした。


「もう泣いてはくれないの?
   泣かない貴女に興味はないの。
   また悲しんでくれるようになったら、愛しに来てあげる」
それが誰に向けられた物か分からなかったけど、辛うじて耳障りだ、と感じた。


一団を率いていた旅芸人の座長から聞いた話も、私には何のことだかさっぱり分からなかった。
数年前、一つの村に災厄が起きた。
村人の大量虐殺。
何かに齧られ、嬲られ、食べ残しのように荒らされた死体。
そして残されていたのは、返り血まみれの少女だった、と。
当初は少女が犯人として疑われていたようだが、茫然自失で食事睡眠すらままならない少女があまりに不憫で、結果疑いの目は憐憫に変わったと。
数年かけて少女は心を取り戻したが、当時のことはおろか、生まれも育ちも何も覚えていないと。
そんな話を聞いても、まるで他人事だった。
少女が自分だ、と言われても物語を聞いているような気持ちで、まるで実感がない。
「まあ、おめーがよく働いてくれてる。今はそれだけで良いんだろうよ」
そう言って大らかに笑いながら背を叩く座長に、軽口を叩き天幕を抜け出す。
今日はまだ洗い物も洗濯も、買い物も残ってる。
次の出し物を決めるために、本を読もう。
まずは晴れている間に洗濯を済ませよう。

「ようやく、泣いてくれるようになったかしら?」

あぁ、それは聞き覚えのある耳障りな声で。




子どもが、泣いていた。
どうやら転んでしまったようで、痛い痛いと泣いていた。
どうにかして泣き止ませてやりたかったから、側に座り、傷に手を添えた。
子どもは身震いしたが、自分の手から光が溢れ、傷が消えた。
びっくりしたような顔の子どもと、駆け寄ってきた親に頭を下げられた。
ケルベロス、と聞いてもよく分からなかった。
ただ、何故かは分からないけれど、この手に守れる力が欲しかった。