戦いのあとのはなし。

深い森の奥にある洋館。
その一室に古書と文献に埋もれた部屋がある。
アトリは元々は図書室だったその部屋に毛布を運び込み、住み着いている。
古びた長椅子に毛布を掛ければ、長年住むところを持たなかった彼女にとっては十分な巣となっていた。
彼女は普段、1人で過ごすより他の団員も過ごすリビングや会議場にいることを好む。
しかし、件の一件より数日、図書室でぼんやりと過ごすことが増えていた。


突然だった、宿敵の襲来。
これまでか、と思った時に助けに来てくれたのは大事な人たちだった。
それをまた目の前で失うかもしれなかった恐怖。
蘇った記憶。
宿敵の思い、その最後。
憎み切れない思い。
護ることができた安堵。
何もかもが瞬く間に過ぎていって、感情が追いつけなかった。
毛布に顔を埋め、ぐるぐると回る思いから逃れられずにいた。


ふと、目線をサイドテーブルへ落とせば頂いた手紙を開封していなかった事を思い出す。
白い羽根を持つ、大事な人からの手紙。
手元で開いてみれば、綺麗な文字が並んでおり、人柄を表している様に感じた。
1度、2度と読み返し、同封されていたお守りをぎゅっと抱きしめる。
そしてペンをとり、机に向かった。
返事を一言、二言と書き進めるうちにじわじわと涙が溢れ出る。
手で拭っても抑えきれず、頂いた手紙を汚さない様に庇っていたら、出すべき手紙を汚してしまった。

怖かった、恐ろしかったけれど。
とにかく、護れたんだ。
両手でいっぱいに貴方を抱きしめることができた。
それで、良かったんだ。
胸のつかえがすとんと落ちた気分だった。

最後に小さく鳥の絵を描いて、封筒に入れる。
眠りから覚めたら、手紙を届けに行こう。
ずっとそばにいたい、あの大好きな人へ。